moso magazine Issue 4――エッセイ


ねこ


突然ですが、猫っていいですよね。僕は猫、好きです。
今日は猫について書いていきたいと思います。


どう表現したらいいでしょう。あのアンニュイな雰囲気、物憂げなたたずまい。僕きらいではないんですよ。こっちに気があるんだかないんだか、男の気持ちをはぐらかす女の子みたいですよね。「あなたのこと好きよ、好きなんだけどね・・・」とはぐらかされる感じ。そう、猫ってやっぱ女の子なんですよ。


反対に犬は男ですよね。あいつらはアホですよ。
近所の家の玄関先でデッカイ犬が飼われているんですが、あいつきっとアホですね。
僕が出かけた帰りに、そこの階段を自転車担いで通らなければならないんですけど、もれなく吠えてきます。吠えるなよ〜って、何度言い聞かせても吠えます。番犬だから仕方ないといわれればそれまでなんですが、吠えるにも吠え方ってものがある。僕のことを毎回鬼の首をとったかのように、吠え立てるんですよね。
おいおい、もう2年の付き合いになるんだしさ、いいかげん覚えてくれよ俺のこと。


主人公が猫を飼っている設定のアニメと犬を飼っている設定のアニメがダブルブッキングしてたら、間違いなく僕は猫のほうを見ますね。
猫が店長のドライブスルーと犬が店長のドライブスルーがあるならば、なんとしても僕は猫のほうに入ります。
猫高校と犬高校が甲子園の準決勝で当たったら、猫高校を全身全霊で僕は応援します。


そういえばオタクの萌え要素に「猫耳」はありますが「犬耳」はなかったはず。オタクのそこらへんの感性はやはり鋭い。


やっぱり猫、僕は彼女がいいです。
僕の住んでるアパートにはよく近所の野良猫がやってきますが、どこの猫も同じで、やっぱりその子もかわいい。
1度深夜にゴミを捨てに行って帰ってきたときに、玄関前にその子が座っていました。
いつもは近寄ると逃げてしまうんですが、その時はいくら近寄っても逃げません。そばまで行ってとうとうさわってみたんですが、それでも逃げないんでよしよしとお腹をなでてみました。
たぶん彼女にも気持ちいいところと、気持ちよくないところがあるのでしょう。いいところだとさわっていてもくすぐったそうな顔するだけですが、よくないところだとさわった瞬間に「やめてッ!」という感じに足で払ってきます。
そういう反応が楽しいんで遊んでいたら、いつの間にやら小一時間くらいが経っていたでしょうか。限がないんでバイバイして、部屋に入って明るいところでふと自分の手に目をやりました。野良だったので思いのほか爪が伸びていたんでしょう。両手は引っかき傷で血だらけでした・・・。
・・・まあ、こんな風に僕に完全に気を許さないところもまたかわいいじゃないですか。


生まれ変わったら僕、猫でいいです。
まあ、それは人間がダメだった時の話ですけど。
人間だったら女優の夏帆になりたいですね。天国でそういうこと決める人に、「夏帆どころか君、次は人間ムリだわ」と言われたら、間違いなく僕は猫をとります。
猫といっても様々ですけどシャムネコは嫌です。シャムネコはスレンダーすぎます。僕はやっぱり中肉中背の普通の猫になりたい。夏帆っぽい猫がいいです。
飼われる家も、シャムネコを飼ってそうなアラブの石油王の宮殿はご遠慮します。大理石がつめたそう。
やっぱり、日本の中流家庭がいいですね。夏帆似のねこで床暖がついてる三井のリハウスに住みたいです。それで中二の姉と小五の妹のいる家庭に飼われたい、もちろん夏帆似の。そのペアだと小動物にあんまり乱暴しなさそうじゃないですか。


というわけで僕は猫、好きなんです。何度も言いますけども。
でも僕の猫の一番好きなところは、今まで書いてきたことではないんですよ。
僕、実は「ねこ」って言葉自体が一番好きなんです(そういえば犬は「いぬ」、そこに「いない」の古文の表現になりますが、これはあんまりかわいくないですね)。
ねこって言葉、面白くありませんか?ねこって言葉について考えていたら、僕楽しくなってくるんですよね。
キモかわいいという言葉がありましたが、僕に言わせればねこって「オモロかわいい」んです。


あの小動物をな行の4番目の音と、か行の5番目の音の2つで言い表したんですよ?
「ねこ」という言葉は日本が世界に誇るべき立派な発明ですよ。


やはり英語のCat=キャットではダメなんです。たしかに小さい「ッ」が入ったことで、猫の俊敏なところを言い当てているようにも思えますが、猫ってそれだけじゃない。キャットでは猫の不思議なところやかわいらしいところが伝えきれないんです。
映画「バットマン2」にはキャットウーマンという悪役が登場します。
たしかミシェル・ファイファーが演じていたと思いますが、女性という設定にしたところに監督ティム・バートンの才能を感じます。なかなか「ねこ度」の高い監督じゃない?と見直しました。けれども、いかんせん彼は彼女をただのセクシーな悪役キャラにしてしまった。猫が「ねこ」たる所以、それはアメリカ人に説明してもなかなかわかってもらえないのかもしれません。


日本人にとって猫といえばこたつですし、こたつといえば猫です(そういえば暖炉の前で温まるのが似合うのはセントバーナードみたいな大きな犬です)。
さらに言えばこたつであったまる猫は、猫ではないしネコでもない。もちろんキャットでもありません。やっぱりひらがなの「ねこ」なんです。


想像してみてください。
毎日ラーメン屋の裏のポリバケツの残飯を漁って生き抜いているような野良猫、「あたいは誰のものでもないわ、ニャァーッ!!」とすごむようなアウトローで凶暴な猫でさえ、当然ながら「ねこ」なんですよね。捕獲しようとしている保健所のおじさんも「あの『ねこ』だ!」って追っかけまわすんですよ?


または、発情期でさかりがついた猫。
深夜の公園で猛烈な交尾を繰り広げているのを見かけたことがあります。その光景だけとると、「生命の神秘」とか「動物の本能」みたいな言葉が浮かんできて、どこかグロテスクで生々しい意味に回収されてしまいます。でもそんな彼らも立派な、やっぱり、もれなく、絶対的に、「ねこ」なんですよね。
個人的にはねこの交尾だけは、交尾じゃなくて「にゃんにゃん」と呼びたいところです。


それら「ねこ」と呼ばれている動物が例えば、「ガーゴイル」とか「ギャラドス」と呼ばれているならば話は別なんです。でも彼らは日本で「ねこ」と呼ばれている。
僕はねこと口にするだけで、その出来事を包み込む温度が1℃か2℃上がったような、なんだか気持ちがポカポカしてくるんですよね。


僕の言っていること、まだわかってもらえませんか?では今回は最後に1度みんなで発音してみましょう。実際に声に出してみるのがいいかもしれません。
あなたの出せる一番かわいらしい声でお願いします。
行きますよ?せーのっ「ね こ」


イマダ