〇六部隊の前線便2通目 初音型依存症候群
あなたの歌姫
この家のこのパソコンが 私の新しい居場所なの
今日からはあなたがご主人さま 絶対に大切にしてよね
ちょっと なにするの こんな卑猥な歌詞を歌わせないで
ちゃんと あなたの言葉と想いを伝えさせて
あの時 私を買ってくれた 本当の意味は違うでしょ
私にもっと歌わせて 世界であなただけの歌姫なの
…以下略
-
- +
感動した人、手ぇ挙げて〜♪
…僕だけですか?
昨年9月頃から一世を風靡した初音ミク。そもそも初音ミクとは、クリプトン・フューチャー・メディアから発売されたPC用の音声合成ソフトです。ギャルゲーではありません。ソフトを立ち上げても、彼女のイラストは出てきません。パッケージのイラストのみです。(もちろんネット上で二次的にはたくさん存在します。)彼女のできることはただ1つ。
萌えボイスを発します。
…あなたの思い通りに!!*1
この前提を知っていないと、この曲の歌詞の意味がわかりません。人間がこんな歌詞を歌っていたら、明らかにおかしいですから。彼女はVOCALID*2(クリプトン・フューチャー・メディアHP内、http://www.crypton.co.jp/mp/pages/prod/vocaloid/より抜粋)
(ボーカロイド:ボーカル・アンドロイドから作られた造語です。)
未だかつて、ここまで擬似的に、しかも他人に後ろ指さされることなく買える女の子が存在したでしょうか?(もちろん後ろ指さす人もいるでしょうが)このVOCALOIDと従来の「萌え」要素が、彼女のヒットの要因であるとも言えます。
彼女が他のいわゆるキャラクターと違う所は、住む世界がないということです。例えば『らき☆すた』のこなたなら「らき☆すた」の世界に住んでいますし、『ポケモン』のサトシなら「ポケモン」の世界に住んでいますが、「初音ミク」の世界や「VOCALOID」の世界は存在しません。そんな彼女が住むことのできる唯一の世界が、「あなたのパソコン」なのです。
考えてみれば彼女はユニークな誕生をしています。
1:声優・藤田咲の声の収録(種付け)
2:ヤマハ研究者のデータ処理(遺伝子操作)
3:パッケージング/パッケージド(子宮到達)
4:購入者の開封(誕生)
5:インストール(家<居場所>の確保)
種付けという意味では、初音ミクの父親は藤田咲です。しかしもちろん、藤田咲は女性です。ヤマハの研究者たちを父親と位置づけることもできますが、受精卵のDNAを操作する医者というイメージの方が近いかもしれません。パッケージを子宮と捉えれば、母親は箱になってしまいますwそしてその箱を開封する購入者は、赤ん坊をとりだす医者というところでしょうか?しかし彼は同時に、その後の初音ミクを調教(音程を合わせていく作業のことをさします。もちろん性的な意味での調教とかけていますが。)していく父親でもあります。
この中でとりわけ注目したいのが、やはり購入者が父親になれるということです。なんせ初音ミクは購入者のパソコンでしか生きていけない上に、購入者の意思で存在を消す(=アンインストール)ことすらできてしまいますから。この初音ミクの寄る辺なさは(『文化への不満』でフロイトが述べているように)人間の赤ん坊とよく似ています。購入者は初音ミクの父親であり、神様なのです。
自分が絶対的に上であることの優越感、彼女が自分に好きになってもらおうと努力する子供のようなかわいらしさ。それでいて容姿が10代美少女であることから恋人のような役割もはたします。このようなVOCALOIDならではの要素をたくさん含む歌詞を使った曲が、初音ミクヒット曲の大半を占めています。(『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』、『Packaged』、『恋スルVOC@LOID』など。)こういう分析めいたことを言われると初音ミクが汚されているような気になる(正しくは自分が貶されているような気になる)のは、やっぱり僕がみっくみっくにされているということでしょうか?(自分で言っているくせに。)
しかしここで1つ問題が生まれます。今まで語って来た購入者についてはいいとして、購入していない人間、曲を聴いて楽しんでいた人間に対してもはたして同じことが言えるのでしょうか?ちなみに僕はこっち側の人間です。(一応DTMユーザーですが。)初音ミク買いたいんだけど、mac版出ないかなー?とか思っているうちに、初音ミクが(みくみくのJASRAC登録などもあって)下火になり始めちゃったという感じです。
このことについては、あまり変わらないとみなしていいと思います。というのも、どこかペットでも飼っているような、上からの視点がこの曲を聴くときの僕にあるなぁと感じるからです。確かに初音ミクは購入していない僕の思い通りにはなりませんが、しかし他人と初音ミクを共有しているような意識があります。そもそもニコ動自体、投稿者・視聴者の間に仲間意識のようなものがありますし、それで彼女を二次的でありながらも手なずけているような感覚が得られるのではないでしょうか。やっぱり僕は初音ミクの父で神で、ついでに恋人(といった妄想を少なからず抱いている人間)なのです。
…といいながらも、こんなことを書いていると初音ミクに同情しだしてしまう僕は偽善者なのでしょうか?ただ弄ばれるだけの存在。ただのPCソフトなのに、そこにキャラクターが設定されただけで彼女の気持ちみたいなものをちょっと考えてしまいます。飽きたらポイ。消費社会ではどんな製品もたどる運命ではありますが、世の中にはこんな曲もあります。
この曲がニコ動で削除された*3のは、やっぱり父親に牙を剥いたから…?
『School Days』や「京田辺警察官殺人事件」にせよ、『新世紀エヴァンゲリオン』にせよ、女の子が父親(的存在)に依存する(せざるを得ない)のは悲劇にしかならないのでしょうか?
太田