moso magazine Issue18――今週の「テレビ」


もうお気づきだと思いますが、moso magazineのロゴが完成しました。この本家をパロったかっちょいいロゴを作ってくれたのは、読書会の良心ことおおはしくんです。
彼に拍手!(パチパチパチッ)

遅ればせながら、そのことを冒頭でご報告させていただきました。

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噂の!東京マガジン


僕はここ最近(といってもずいぶん前からのような気もするが)のTBSの「ダメさ」と「古さ」を象徴する何かがこの番組には隠されているのではないかと思っている。
今回はそのことについて考えてみたい。


噂の!東京マガジン」というのは森本毅郎が司会のワイドショー。日曜の1時に放送されるのどかな情報番組だ。
興味深いのは、この番組がものすごく特化した視聴者層をターゲットにしていることが「見え見え」の番組であるということだ。そしてその絞り込まれているターゲットとはおそらく中年のサラリーマン、「親父」である。


この番組は、出ているタレントの平均年齢からして、ものすごく高い。
最近のレギュラーは井崎脩五郎清水國明山口良一笑福亭笑瓶北野誠風見しんご、志垣太郎、深沢邦之。一番若いのはアシスタントMCのなっちゃんこと元フジテレビアナウンサーの小島奈津子なっちゃんだって、もう40間際だ。


次に番組の構成。
番組はまず、その週の電車の中吊り広告の中でもっとも興味を引いたものを選ぶ「今週の中吊り大賞」ではじまる。
その次は、街頭で今時の女性にぶっつけ本番で課題料理を作らせる「平成の常識・やって!TRY(とーらい)」(このネーミングセンスも古い)。そして最後に、各地で起きている問題について、実際にリポーターが現地に出向いて突撃取材を敢行する「噂の現場」。多少は変更あるが現行もっともある構成がこれだ。


最後の「噂の現場」はよしとして、その「親父臭」が漂うのは最初の2つのコーナー。
中吊り広告というのは当たり前の話、電車にあるものであるからそれらの中から大賞を決めるということに興味を引かれるのは、毎朝電車を利用してそれらを実際に車内で眺めていた親父ということになる。ただ、このコーナーはまだ電車に乗る人は親父だけではないという言い訳が立つ。しかし、二つめの「平成の常識・やって!TRY(とーらい)」はそうはいかない。

このコーナーの醍醐味はなんといっても、昔の女性なら「当たり前」に作れていた料理を、今の若い娘が作れないこと、そのダメさ加減を、彼女らにあきれかえっている口調の乱一世のナレーションによって変換される笑いだろう(ちなみに、このコーナーで追加されているおばちゃんの笑い屋、今ではこの番組と番組改編期に放送される「ドリフの大爆笑」の再放送SPぐらいでしかお目にかかれない、絶滅危惧種ではないだろうか)。


結局このコーナーは、娘に「洗濯物、オヤジのと一緒に洗わないで」など言われたり、妻から「給料袋を運んでくる人」と呼ばれて、日頃家族から蔑まれている親父たちの溜飲を下げることが目的なのではないだろうか。
このコーナーを見ていると、日曜の昼下がりにリビングに片肘ついて寝ころんだ親父が、卵焼きもろくに作れない娘ぐらいの女の子をみて「ったく!だから今時の若いもんは」と毒づく姿が目に浮かぶのである。


ここで重要なのは、実際に毒づく親父がいるかどうかではない。
そうではなくて、それほどまでに明確にこの番組が見てもらいたがっている視聴者イメージがはっきりくっきりいわかってしまうことが重要なのである。


ここに、TBSの「ダメさ」や「古さ」の根源があるような気がする。


そのことは今回のクールのドラマにも当てはまる。
「Around 40〜注文の多いオンナたち〜」は、天海祐希を主役に、恋に仕事に奮闘する未婚の40代のキャリアウーマン、要するに負け犬を描こうとしている。
今僕は「恋に仕事に奮闘する」とキーボードで打っていて、そのこと自体で赤面しているのだが、それほどまでにこのフレーズというのは、ありきたりで、要するに「ベタ」なのである。
実際僕はこのドラマを見たことはない。見たことのない人間がテキトーなことを書くな、といわれそうだから、TBSの公式サイトの簡易なあらすじを読めば、僕が予想していたことと寸分違わない。やっぱり天海はこのドラマで「恋に仕事に奮闘する」のだろう。


実際に見なくてもタイトルでわかる。
それぐらい、ありふれていて、どこかでみた話が繰り返されるのだろうということがこのドラマに対しては予想できてしまうのである。しかし、TBSのドラマが上手くいかないのは、ストーリーがありふれているからとか、出来合の設定だからではないのではないか。それならば、他の局のドラマも同じようにダメに見えるはずだ。
TBSがダメに見えてしまうのは、ストーリー自体がどうこうではなくて、先に挙げた「噂の!東京マガジン」と同じく、そのあからさまな視聴者層の絞込みにあるのではないか。


「Around 40〜注文の多いオンナたち〜」は、これまたわかりやすすぎるほどに視聴者層が想定されている。その想定された視聴者とは、劇中の天海のように「恋に仕事に奮闘する」負け犬世代なのだろう。別に僕はこのドラマをそういった人たちが見て、「共感」というものをしてもらってもいいと思う。僕は別にそういうことを軽蔑しているわけではない。
しかし、おそらく天海を通して描かれる人間像に当てはまる人たちは、彼女の演じるキャラとドラマに対して、「反感」はもったとしても共感はしないのではないか。


たしかに、今までのドラマも視聴層は想定されていたけれど、何度も言うけどTBSの場合はあからさますぎるのである。例えるならそれらは、子どもがレストランに入ってきたら、「お前はこんなのが好きだろ!?」と「お子様ランチ」をテーブルに持ってこられたようなもんだ。子どもも自分で選んだお子様ランチなら納得できても、子どもだからといって押しつけられたお子様ランチには反感を持つだろう。

他にも今期は同名マンガが原作の「ROOKIES」が佐藤隆太主演でスタートしているが、放送時間がゴールデンタイムの土曜午後8時・・・。
いくら何でも8時はないでしょ、と思うのだが、これも比較的若い視聴者に対して向けたメッセージなのだろう。これまたわかりやすすぎて、いかにも「TBS的」なのである。


視聴者層のターゲットを絞るというのは、その視聴者層に入らない人間に対して排他的になるということと表裏一体になっている。現に僕はアラフォー(「Around 40〜注文の多いオンナたち〜」はこう略して呼んでほしいらしいです)に対して感じるのは、大学院生で男の僕は最初から見る視聴者層として想定されていないだろうな、ということである。


そのような視聴者「層」とか、「階級」で一括りに語られることは現代人は特に忌避しているように思える(このことについては、また違う記事でアニメ「のらみみ」を通じて書いてみたい)。
そんな押しつけ気味の狙いが、画一的にある層をまとめ上げようとする仕草が、TBSの「ダメさ」と「古さ」の正体なのだ。

では、何が今テレビに求められているのかといわれれば、それはただ「おもしろい」こと、としか定義できないのだが、それでも他の局がTBSより「まし」なのは、TBSのように過度にターゲットの絞込をしていないところにあるのではないか。
他の局はむしろ、どんな視聴者層にターゲットを絞っているのかを攪乱させる方に動いている気さえする。
今は、既存の年代別の視聴層ではカテゴライズできない、「いったいどんな人間がこんなものを好きこのんで見ているんだ?」という番組ほど、人気が出ているような気さえする。

内田樹は『先生はえらい』の中で、ブランド品の魅力はその高値が事細かに説明できるからではなくて、「なぜこんなただの時計が、バッグがこんな高いのだろう」という高価な値段の説明が付かない謎の部分にあるのだと論じる。


TBSの場合は逆に、「この番組はこれこれこういう構成になっていて、この視聴者層に見てもらいたい」というメタメッセージが見え見えなのである。


ほかにもTBSに関しては、母親はすんなり死んだにもかかわらず俳優が死んでもなお親父は俳優を代えることで生きながらえる不気味な「家父長制ドラマ」、「渡る世間は鬼ばかり」についても、精神分析文化人類学的な側面からメスを入れたかったのですが、今回はなにぶんゴールデンウィークですから、それはまた別の機会に。


ではみなさん、よいゴールデンウィーク後半戦をお過ごしください。


イマダ