〇六部隊の前線便5通目


大人気を博したソフトバンクのホワイト家族24。2007年のCM好感度NO.1にも輝いたほどであるが、もちろんそのポイントは「お父さんが犬」である。


ここであえて、なんで犬になった(成り下がった)のがお父さんなのか、ということに注目したい。もし仮に、家族構成のうちの誰かを犬に置き換えたら…こう想像してみると、なぜかお母さんや娘を犬に置き換えるのは想像しにくい。それもそのはずで、犬とは何やら「汚い」イメージを僕らは持っているのだ。以下『幻想の未来/文化への不満』(フロイト中山元訳、光文社古典新訳文庫)収蔵「文化への不満」より



ところで犬は動物世界の中で、人間にもっとも忠実な友人である。それなのに犬という語が侮辱のために利用されるのは不思議であるが、それは犬は人の軽蔑する二つの性格を示しているためだとしか考えられない。犬は嗅覚の鋭い動物でありながら、排泄物をまったく嫌悪しないし、さらに自分の性的な行動を隠そうともしないからである。



なるほど確かにそうかもしれない。犬に親しくない僕としては犬が実際に性的な行動を隠そうともしないのかどうかはよく知らないが、しかしピンとくるのである。漫画『20世紀少年』にはユキジ(女性)とその友人(女性)の、次のような一節がある。



友人:・・・って、あんた聞いてるの?
ユキジ:聞いてるわよ・・・・・・・・・
ユキジ:聞いてるけど、あたしの問題の方が、ずっと深刻・・・・・・・・・・・・
友人:もしかして、男・・・・・・?
ユキジ:もーダメ。もー我慢できない!!もーイヤ!!
友人:あなたって、つくづく男運ないものね。
ユキジ:いくら言っても言うこと聞かない。右って言えば左。左って言えば右。
友人:そんなに思う通りにはいかないわよ。
ユキジ:もーイヤ。
ユキジ:ちょっと目を離すと、すぐいなくなる。
友人:それをまた追いかけるから、相手がいい気になるのよ。
ユキジ:もーイヤ!!毎日毎日あんなことまでされて・・・・・・・・・
友人:何されるの?


ユキジ:いきなり股間に顔つっこんで、なめるのよ!!
友人:嘘・・・・・・・・・
ユキジ:嘘じゃないわよ!!ちょっと油断すると、すぐあたしにオシッコひっかけるし!!
友人:は・・・話には聞いたことあるけど、ホントにそんなことする奴っているんだ!!
ユキジ:ところかまわず興奮して、腰動かすし!!
友人:さ・・・・・・最低!!
友人:悩んでる場合じゃないわ。早くわかれちゃいなさいよ、そんな・・・・・・・・・
ユキジ:別れたいわよ、あんなバカ犬*1!!
友人:犬・・・・・・?



一見男って思わせておいて、実は犬の話だったっていうオチ。当然友人は途中まで男の話だと思って喋っているけど、実はかみ合ってしまうというところが怖いところ。つまり、女性が抱く犬のイメージと最低の男のイメージが、実はそんなに違わないのではないか。


これを引き合いに出すのは、正しくないと言われるかもしれない。確かに世の中両者に対するそういうイメージはあるけれど、ホワイト家族の「お父さん」演じる「カイくん」に対するイメージはそうではない、と。彼に汚いところは一切なく、ただ単に「かわいい」存在なのだと。そう、例えるなら忠犬ハチ公なのだと。


しかし忠犬ハチ公は、忠犬なのである。つまり、誰かの命令に従う犬。決して父親ではないのだ。だからもし息子が犬に置き換えられていれば、忠犬ハチ公のイメージをそこに重ねたかもしれない。しかしソフトバンクは、父親を犬に置き換えたのである。


加えて実際に犬を飼っている人で、排泄物をはじめとする「臭い」に悩まされない人はいない。ただ飼い主たちは、「臭い」の処理という「汚い」仕事をしなくてはならない分を差し引いても、「かわいい」ペットたちを欲するのである。あなたが臭いのは我慢します。ただ「カワイイ」存在でいてくれれば。身の回りの世話はわたしがしますから、どうか「カワイイ」存在でいてください。ただしあなたは犬で、わたしは人。そのことだけは忘れないでください。


犬という記号に付随するイメージがもしこういうものであったなら、父親を犬に置き換えるなんてなんという侮辱だろう!しかし僕らはこの感覚を、真っ向から否定することはできない。オヤジという記号に付随するイメージがどのようなものか、想像するまでもないだろう。


言うまでもなく僕らは、オヤジを馬鹿にしている。しかも本気で。残念ながらYou Tubeでもニコニコでも見つからなかったのだが、僕はレノアの加齢臭をネタにしたCMを忘れられない。



あれ、ちょいクサ・・・?
もしかして、加齢臭!?



オヤジと犬の関係が、「臭い」を中心とした「汚さ」によって結びつけられている。ホワイト家族と20世紀少年とレノアから、僕はこんな結論に辿り着いてしまった。そして重要なのは、ホワイト家族24では理想的な家族関係が描かれていることと、このCMが大人気を博したこと。このことから読み取れるのはやはり、「父親よ、犬になれ」ということである。そうすればすべてが救われるといわんばかりに。


太田

*1:ユキジは税関職員で、麻薬犬のハンドラー。