『B型 自分の説明書』なんて読むんじゃなかった。 


後悔15日目


先日、バイト先で『B型自分の説明書』に目を通す機会があった。雑誌の企画で使うので、バイトの全員がどのくらいB型か、この本の一問一答形式に沿って調べてみて欲しいとのこと。大体750問くらいあるチェック項目をひたすら埋めていき、最後に1ページあたりのチェックマークの量で、自分がどのくらいB型か判断してくれるというものだ。

しかしまぁ、その判断がいい加減なこといい加減なこと。読んでいる最中はなんとなく面白いのだが、読後なんともいえない脱力感に苛まれる本だった。この本から感じられるのは、そこはかとないエンターテインメント性であり、間違っても知性ではない。ケータイ小説にも似通った、ヤンキーからの消費を狙う意図が伝わってきた。

「なんだかんだ言って、日本人は血液型とか好きだから。」では片付けられない問題が、ここにはあると思う。


『B型自分の説明書』は100万部を突破したらしく、続いたA型、AB型も10万部越える大ヒット。ちなみにO型の発売は8月だが、こちらもそれなりの数は売れるだろう。

これら説明書は、昨年夏に自費出版で1000部からスタート。それが山形県を発信地に北海道・東北地方で広まり、今や全国規模の大ブームになった。著者のJamais Jamais(じゃめじゃめ)さんの絶妙な語り口で、B型人間を理解するためのチェック項目が面白おかしく展開されていくのが主な内容で、30分ほどで読めてしまうその軽さも人気の種だという。

確かに読みやすく、チェック項目もいちいち深く考えずに、「あるあるwww」「ねーよwww」と、2ちゃんねるの書き込みのごとく脊髄反射で答えられるようになっているのは、巧みである。設問も、流れるように口語で書かれているので、血液型を意識せずに、誰でも楽しめるようになっているのが上手なところ。深く考えながら読めないような構造になっている。


チェック項目を少し抜き出してみると、
――
□ 気になることがあると即行動
□ その時の行動力はすさまじい
□ でも興味がないとどうでもいい
――
□ 腹立ったらモノにあたる。モノ投げる。
□ その際、壊れてもさしさわりないモノを選ぶ。そこは冷静。
□ 結果、手応えなさすぎてもっと怒りが増す。
□ しばらくおさまりがつなかい。その間にも投げるモノ探してる。
□ それもやっぱり壊れていいモノ。
――
□ もったいながり。けっこう後で使えそうなモノをとっておく。
□ でも、掃除の時ウソみたいにあっさり捨てる。
□ 部屋にあるモン全部捨てたい。
□ でも捨てない。困るから。
――
□ 変って言われるとなんだかうれしい
――
□ 利き手じゃない方を利き手にしようと試みたことがある
――
□ よく道を尋ねられる。
□ しかも外人!
――

もうB型関係なくね?


こういう設問を見ていて思うのが、以前にも書いた「バトン」という現象である。mixiやblogの興隆によって生まれたナルシシズム的な自分語りを、本人にはそれと気づかせない形で上手に満足させる手段、それがこの本にもあるのではないか、ということだ。

Amazonのレビューを見ていても、その感想から、自分のことを説明されているにもかかわらず「ネタ」としてしか受け取らない奇妙な態度がいくつも見て取れる。

1
・ネタ本に1,000円は惜しくない人
・ネタをネタだと笑い飛ばせる人
・物事を真面目に考え過ぎない人
・「下手ウマ」が理解できる人
上記に当てはまらない人は、読んでも不愉快になるだけです。

2
B型の本より A型の本ほうがチェックが多かったB型ですw
なんじゃそりゃ・・・。俺はなにB型で性格はA型なの???w
まぁ、いまさらABO式血液型占いを本気で信じる人がいるとは思わないけどw

信じる信じないは人それぞれですがw、楽しみに読むにはいいんじゃない?
簡単な自己紹介本みたいな感じだしね

3
B型の♂ですが、早速読んでみました。

まず、あくまでもこれはネタの本です。
血液型による分類分けや、B型はこうすれば良いというようなHow to本ではありません。
ネタかネタでないか、作者の意図は本書の一番最後に書かれています。
折角ですので、まだ読まれていない方は本編をチェックしてから最後を確認して下さい。

内容ですが、最初は「あー、あるある」と思って見ていたのですが、
途中から「うーん、そうかぁ?」と思うようなものが多くなってきました。
しかも、似たようなものがかなり多い。
その辺りはネタ本と思って割り切れば面白く読めると思います。


一体、本当の自己はどこにあるのか?
バトンにしてもそうだが、自分を語る、説明する/される中で自分というものを確認し、あるいはナルシシズムに浸っているにもかかわらず、「ネタだからw」と(笑)えてしまうのは、どういうことだろう。

我思う故に我あり、ではないが、「『ワタシはこう答えているけれど、そうじゃないワタシもいるのよ』と思っているワタシとも違うワタシがいるのよ」と思っているワタシは…、と、延々と続いていく自己のメタレベル化が、この本によって促進されている気さえする。「スイーツ(笑)」にしても、スイーツが好きな自分と、それを笑う自分の分裂という点で、『B型…』と取っ掛かりは同じであろう。

ネタでない「血液型の本」、あるいは「スイーツ(笑)」の果て、は、一体全体どこにあるのだろう?


『B型…』の最後、チェック項目にいくつ○がついたかで、あなたがどのくらいB型かを判断してくれるのだが、これもまた曖昧。4段階で、「ほとんど埋まった人=完璧なB型」「多かった人=まぁB型」「それなりだった人=B型的な側面も持っている」「あんまりなかった人=そうやって○をつけないように意地を張る点で、B型。」

おいおい。

結びもまた良い言葉が紡がれている。

この本に書かれていることが、B型の全てではなく。
B型だけに当てはまることでもなく、
B型だからこうというわけでもない。
人は十人十色、それぞれが作り上げてきた「自分」がある。

それなんてオンリーワン?


そうは言っても、自分もそうやって「ネタ」として、この『B型…』を読んでしまった人間だ。そんな、「『B型自分の説明書』を読んでしまう人の説明書」をちょっと作ってみた。

□ とりあえず、話題に乗り遅れないように読んだ。
□ でも立ち読み。
□ これB型じゃなくても当てはまるだろ!と怒る。
□ でもちょっと楽しんでいる自分がいる。
□ 実は、早く自分の血液型のを読んでみたいと思っている。
□ でも買うとなんだか負けた気がするので悩む。
□ 「自分も知らないB型の正体」など類似本を笑う。
□ 結局血液型と性格なんて関係ない。
□ でも、関係していて欲しいと思う自分もいる。
□ でも、ぶっちゃけるとどうでもいい。


全部あてはまる自分に、
後悔した。


おおはし